ベア小話 その4 猫と羊 そしてクマ


彼女とは何年の付き合いになるだろう....。

昔、東京に「種山ヶ原」という糸紡ぎの道具や織り機などを扱うお店があった。そこで彼女が働いていたときに出会い、仲良くなった。

そのあと岩手県に移り住んだ彼女は、「はらっぱ羊」(カントリーヘッジ)を立ち上げ、ウールにまつわる仕事で生計を立てながら、羊や猫たちと共に生活している。

あれからもう30年以上が経つ。

今も細々ながら、連絡を取り合っている。実際に会ったのはほんの数回だけれど。


ある日、私が「ちくちくベアを立ち上げました」というお知らせメールを彼女に送ったら、こんな返事が返ってきた。


「中略 〜 ちくちくベアのサイトの’黒ベア’が特に好きです。4年前にやってきて3年間一緒に暮らした長毛の黒猫むんとにも似ている。 毎年冬の厳しい寒さの時期に開く『羊いっぱい展』の最中に食べられなくなり、 会期が終わって4日間見続け、2月29日に逝ってしまったむんと。 うちにいる2匹の猫(母さんと息子)はむんとを受け入れなかったので、 家の中を仕切って暮らさせていたのですが、昨年くらいから仕切りを外し、 少しずつ慣れてきたところだったのに… むんとのいない日々にようやく慣れてきた私。 黒のベアからまたむんとの可愛さを思い出していました。」


そのあとも何度かやりとりをしているうちにふと、この黒ベアは彼女のところに行くのが、互い(彼女と黒ベア)の幸せにとって一番いいのかもしれないと思いはじめた。そう思ったら居ても立っても居られなくなり、さっそくベアの首にチャームを付け、顔のトリミングをし、彼女がどういう人なのかをこのベアにこんこんと話して、「岩手で彼女や動物たちと楽しく幸せに暮らすんだよ」と言ってから、「〇〇ちゃんの小さな神さま」というカードを添えて箱に入れた。別れはいつもそうだが、少し涙が出る。

数日が経ち、彼女からこんなメールが届いた。


「思いがけない贈りものにびっくりして泣きました。 

ちいさな神さまも我が家にびっくりしているのでは… どこに落ち着いてもらえば良いのか…と うろたえたというのが正直なところです。

 ほんとにウチで大丈夫?と 肩に抱いて何度も聞いていました。 愛らしい目がきょとんとして、 なんでそんなこと聞くの?と言っているみたい。

 いまは、小さなかごに落ち着いて座っています。 心地よくいてくれる感じがしてほっとしました。 小さな収穫かごは今日入手したもので、 まるで準備したようにぴったりです。

 黒猫むんとに似ているわけではないけれど、 持っている雰囲気がむんとなのです。 きょとんと人を見つめる感じ… むんとと呼んでもよいかしら。 いっぱいお話ししながら一緒に暮らします。

 今日はよく眠れそうです。」


この日はぐっすり眠れたそうで、朝寝坊したら羊の’くるるん’が待っていたらしい。メールを読んだ私も幸せいっぱいになって涙が出た。

むんとと一緒になってはじめての朝は、かごに入った’むんと’と一緒に散歩して、交流を深めたそうだ。

’むんと’、岩手の新しい場所で、善き仕事をしはじめたね。楽しむんだよ。ありがとう。

ふたりとも、とても幸せそうだ。




誰かのために手を動かすこと。

これは人間にしかできない「幸せの種まき」だと思っています。

自分の住む世界を幸せにすることが、人間として生きる唯一の’仕事’であると信じているので、こんなすてきな物語を生み出せたことが、最高の喜びです。

人とモノも、愛でつながるのだなぁ、とつくづく。



ChikuChiku bear

テディベア作りのワークショップを運営しています。 かばんに入れて一緒に旅をしたり、不安な夜は寄り添い、いつも話を聞いてくれるかわいい相棒、テディベア。そんな’守り神ベア’を作るワークショップです。この小さな神様を作ることで見えてくる大切なことを伝えていきたいと思っています。by 宮本しばに

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