ベア小話 その1 小さな巨匠



ゲンは8歳。画やデザインを描くのが得意で、根っからの芸術家だ。この歳ですでにいくつもの賞を受賞している。そんな彼を私は「ゲン巨匠」と呼んでいる。 

ゲンはぬいぐるみが大好きで、家には彼がデザインしたり、お父さんと共作したぬいぐるみが100体ぐらいあるそう。

 今年の冬にはじめてゲンが我が家に来たときは、私のテディベアたちとずっとおしゃべりしていた。ベアが何を言っているか分かるみたいだった。ゲンとベアたちのあいだにある、あの不思議な’同調波動’は忘れられない。純粋できれいな世界のなかに彼らが包まれていて、大人の私は入ってはいけないとさえ思えた。

ゲンは私のベア「まー」がお気に入りだった様子で、ずっと抱いている。その姿に私は惚れ惚れとしながら見とれた。子供の手の中でまーが安心して笑っている。ゲンとまーが完全に一体になっている...。大人がベアを持っても、あのような空気感は生まれない。

参った。降参だ。

ベアへの愛は誰にも負けないつもりだが、ゲンとまーを見たときは敗北感のようなものを少しだけ感じた。

 彼のベアに対する強烈な愛情がこちらにも伝わり、いたたまれなくなった私はとっさに「ゲンにベアを作ってあげるね」と約束した。


 あれから2ヶ月。やっと今日、そのベアを渡す日がやってきた。

 ゲンがそのベアを手にしたときの喜びようったら! 

別れるまでのあいだ、ずっと(30分ぐらいだろうか)彼はピョンピョン飛び跳ねながら、からだ全体でその嬉しさを表現していた。かわいい、かわいいと言いながらずっと跳ねて笑っていた。

あまりの喜びように、私も胸がいっぱいになって涙が出てきた。


「嫌なことがあったらこの子に話してね。この子がそれを全部食べちゃうの。そうしたらゲンはもうそのことを忘れちゃうからね。」

 そう言ったら、嬉しそうに「うん!」とさらに高く飛び跳ねてた。かわいすぎる、ゲン巨匠...。 


彼がベアに付けた名前は「パッくん」。

 彼は私と別れたあと、さっそくパッくんに悩みを打ち明けたらしく「すっきりした」って言ってたらしい。

素直な人は救われる。


 彼の喜びも、私の喜びも、宇宙に届いた!

ありがとう、ゲン。




テディベアが世界中で愛され続ける理由。それは、それぞれのベアにすてきな物語が存在することです。ゲンとパッくんのようにまず出会いがあって、そしてこの先、ふたりで物語を作っていけるステキな相棒になるのがテディベア。互いを頼り頼られ、望めば死ぬまでその関係性が続いていきます。

モノと人の関係というのは見方次第だと思っているし、そう思った瞬間に動き出します。

私にとってベアは「光のエネルギー」かなぁ。いつも笑顔で返してくれるガイドみたいな存在。世の中がどんなに冷たくとも、ずっとそばで「そうだよ、君は君でいいんだよ。人はどうでもいいんだ。それでいいんだ。」と言ってくれる。

決してそれは大げさじゃなく、ほんとうのことです。


ベアが誰かにとって特別な存在となりますように。

ベアと一緒に幸せになっていきますように。

製作している者にとっての願いです。


ChikuChiku bear

テディベア作りのワークショップを運営しています。 かばんに入れて一緒に旅をしたり、不安な夜は寄り添い、いつも話を聞いてくれるかわいい相棒、テディベア。そんな’守り神ベア’を作るワークショップです。この小さな神様を作ることで見えてくる大切なことを伝えていきたいと思っています。by 宮本しばに

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