ベア小話 その3 むくで純粋なこと
テディベアを製作しはじめたのはちょうど去年の今頃だっただろうか。この1年で25体のベアを製作した。その多くは養子として今、誰かと一緒にいる。
誰かのためにテディベアを製作したい。去年、乳がんの再発が分かった時にとっさにそう思った。
今回もガンは寛解するから大丈夫、とは思っていたけれど、もし自分に何かあったときのために、今までずっとお世話になった人たちにテディベアで感謝の意を伝えたいと思った。また、病気で苦しんでいる友人たちの慰めになれば、という気持ちもあった。
だから’テディベア行脚’をしたいと思うのはごく自然で、迷いもなかった。
手術をするまでの4ヶ月間、そして術後の放射線治療のあいだもせっせとテディベアを作り、できるだけ手渡しに行った。
毎回、ベアを手にした人は、その喜びをさまざまな表情と表現で伝えてくれた。涙を流す人もいた。そして何より、その対面の瞬間、私が喜びで満たされた。
テディベアを何らかの形で誰かの元へ届ければ、私、相手、テディベア、この3者の喜びが宇宙に届くことになる。そしてその喜びは、そのままこちらに跳ね返ってくるのだと私は信じている。
宇宙は鏡だから。
喜びは喜びを、悲しみは悲しみを、怒りは怒りを連れて、宇宙から戻ってくるという法則だ。
自分がどこにフォーカスしているかで、明日の未来が変わってしまうのだ。だからどんな小さいことにも注意を払わなければいけないと思っている。
さて、4月の桜が咲く頃、私も夫が大変お世話になっているTさんにテディベアを届けた。
以前からTさんに何かの形で恩返しをしたいと思っていたが、「ぼくに似たテディベアを作ったらぜひ」という彼の一言で俄然、火がついて一心不乱に手を動かした。
ベアの名前は「ターくん」。
手渡すまでのあいだ、私がそう呼んでいたので、Tさんに差し上げたあともターくんと呼んでくれている。
ある日、ターくんから手紙が届いた。
「しばにママへ
母の日にプレゼントを送ります。
僕をしがらきに連れてきてくれてありがとう。
ときどき長野の自然が恋しくなるけど、
しがらきにもやっと慣れてきました。
毎日たくさんの鳥が鳴いて、ウグイスも鳴いて、
鹿がキー!と鳴いて、藤がきれいに咲いていて、
自然に囲まれていいところだよ。
今度、散歩をしている僕の写真を送るね。
時々遊びに来てね。
おいしいものを持って!
それじゃ、また。
身体を大事にして、元気で過ごしてねー
しがらきのターくんより」
キラキラした信楽の森で、ターくんは木登りに夢中です、笑。
ターくんはどことなくTさんに似ている。
テディベアを「子供の玩具」と考えているなら、それは違います。
・純粋な心を持っている人
・目に見えないものを見ようとする人
・愛を持って人やモノに接することのできる人
そういう大人にはちゃんと響きます。ベアを’ひとつの魂’として接することができる人です。
人間にとって一番大切なことのひとつではないかと思っています。
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